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2018-08

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和堂先生の手鑑

今年の清和書展の特別展示のテーマは「写経」とし、和堂先生が収集・作成した手鑑「筆陳」の裏面の写経部分、西蔵の貝葉経、老子道徳経、宋時代の木版経等を展示しました。

テカガミ1

ついでに、正倉院御物になっている天平時代の墨や筆の複製品も飾ったところ、本物と間違える人がいるからその旨書いておくべきだとの意見が出ました。そこで説明用タグに「模造品」と追記したところ、印象が悪いとまたクレームがついたので「複製品」と書き改めました。模造品も複製品も同じ意味ではないか、と多少抵抗を試みたのですが、印象が全然違うと言われました。確かに英訳すると模造品は「イミテーション」、複製品は「コピー」ですから、だいぶ印象は違いましょうかね。

平家納経の複製品も飾ったのですが、流石に国宝の平家納経がこんなところに飾られるはずがないと皆さん納得されたのか「複製品と書いておけ」とのクレームは起きませんでした。

桃山時代以降の茶の湯の流行で、床の間に飾るため古筆や古写経の断簡が愛好されるようになりました。収集したこれらの古筆や古写経を手軽に鑑賞できるように折帖に貼り込んだものが「手鑑」で、慶長八年に発行されたポルトガル人編纂の『日葡辞書』にも載っているそうです。

「翰墨城」(MOA美術館蔵) 「藻塩草」(京都国立博物館蔵) 「見努世友」(出光美術館蔵)は俗に三大手鑑と呼ばれており、これらと陽明文庫の「大手鏡」の四点が国宝に指定されています。

手鑑に貼る古筆や古写経の配列の順序は大体決まっていて、天皇家の勅筆、親王・宮家、公家、名人、高僧と言った具合に位の高い者順に並べられました。誰が書いたのかわからない古筆では扱いに困るので、遮二無二筆者を割り付けて「伝だれそれ」とポジショニングされました。聖武天皇宸筆と伝えられる雄健な「賢愚経断簡(大聖武)」や光明皇后の優美な「鳥下絵切れ」は特別珍重され、手鑑の巻頭を飾ることが多かったようです。

「賢愚経断簡(大聖武)」
テカガミ2

「鳥下絵切れ」
テカガミ3


江戸の歌人津村正恭は随筆集『譚海』の中で「手鑑のはじめは聖武天皇と光明皇后の御筆を並べて貼ること」と言い切っています。

和堂先生も古筆・古写経の収集には人一倍ご執心でした。昔々古筆収集の先輩飯島春敬先生に「千円の古筆を五枚あつめるより、五千円の古筆を一枚買うようにとリコメンドされた」と言っていました。こうして集めた古筆・古写経の断簡を手鑑に仕立てることを思いついたらしく、中古の折帖を買ってきて、経師屋に我が家に来てもらい手鑑作りを始めたようです。人伝に聞いた話なのですが「筆陳」というのは和堂先生がつけたネーミングではなく、偶々買ってきた中古の折帖の表紙にそう書かれてあったのでそのまま引き継いだのだそうです。

「筆陳」の特徴は古写経切れの比率が高いことです。92点中59点が古写経切れで、全体の64%を占めています。従って大方の手鑑は古筆切れも古写経切れも区別せずに偉い人順に貼り込んでありますが、「筆陳」は片面に古筆、裏面に古写経と分別して貼ってあります。そのため聖武天皇の「大聖武」は、裏面の巻頭を飾っています。今回の清和展では、この古写経側の面を展示に供しました。

一面の主な古筆切は「高野切第一種」「本阿弥切」「紙撚切」「通切」「大内切」「円山切」「村雲切」「竜山切」「八幡切」二面の主な古写経切は「大聖武」「飯室切」「五月一日経」「国分尼寺経」「二月堂焼経」「安倍小水麿願経」「清衡願経」「平頼盛厳島願経」
ある門人の方が、中に貼りこんである「本阿弥切れ」を見せて欲しいと頼み込んだとき「見せると減るんだけれども、いいよ。見に来なさい。」といったという話を聞きました。「見せると減る・・・」とは随分とケチな言い分のようですが、「本阿弥切」は料紙に胡粉を塗った上に文字が書いてあるので、何回も折帖を開閉すると本当に文字が剥がれて減るのだそうです。和堂先生はそうはいいながらも多分、頼まれると嬉々として見せていたのだろうと思います。

本阿弥切れ
テカガミ4


(植村 齊記)

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